たかのん 『飛ばない理由』

それと出会ったのは私が最終面接を終えて疲れきった帰りだった
目の前の視界が一瞬歪んでその後視界が戻ったと思ったらそれが目の前にいた
第一印象は浪人時代に美術予備校でデッサンした牛の頭骨のようだった
下あごの所から人の口のようなものが見えた。
それでふわふわ浮いていた
怖い感じは無かった
連日の就職活動の疲れで、頭が変になっちゃたかなぁと思ったけど明らかにそれは私の目の前にいた。でもそれを無視して歩き続けるのだけけど私の後をずっとついてくる
人通りが多くないとはいえ途中で何人かとすれ違ったけど誰も無関心だ。
誰もそれが見えていなかったんだろうか
頭の中では〝やっと見つけた〟とか〝採用〟とか言っている声がずっと頭の中に響く。
明らかに私の意志とは関係のない声だったので、どうしてそんな言葉が聞こえてくるのかその時は
よく分からなかった
その日はとても疲れていたから家に帰ってすぐ寝てしまっていたのだけど、それは私の部屋の端っこの方でずっとぷかぷか浮いていたように思える
次の朝目を覚ますとやっぱりそれは部屋の端っこでプカプカしていて、ずっと見ていると頭骨の後ろのほうについている平たいものと長いものがたまにくるくる回っていたりして、それが大きく動いてシルエットが大きく変わったりしてなんか文字のように見えたりもした事を覚えている


バイト先にもそれはついてきていてしばらくは邪魔だったけれどだんだん慣れてきて長い間無視し続けられるようになった
そして相変わらず私以外には見えていないようだ。
従業員の中には外国人が何人かいるのだけど、お客さんのなかには外国人と言うだけで嫌な顔したり必要以上にクレームを言う
お客さんもいたりしてどうしてこんなことになるんだろうな、
といつも思っている。大抵こういうお客さんたちは普段の生活の中では外国の人たちと一緒に仕事したりおしゃべりしたりすることなんてない環境で過ごしているのだと思う、、
私のバイト先の従業員の人たちはとても勉強熱心だし私の大好きなアニメのこともよく知っていて仕事中はとても楽しいのだ。だから私はなるべく外国の人たちとふれあえる仕事につきたいのだ


それが私の頭の中で言っていた〝やっと見つけた〟とか〝採用〟という言葉はそんな今の私自身の切実な願望なんだな、と思う。
ずっと私の側に付いているそれは
特に私に何か影響するわけでは無いし、ましてやそれがこういう状況の世界に対して何か変えてくれるわけではないと思う
ただこれがいるおかげで自分の「こういう事がやりたい!」という意思を固められる気がして、しばらく側に付いていてもいいのかなと思うし、引き続き就職活動は頑張ってみようと思う

それは今でも私のそばをぷかぷかと浮かんでいる
気持ちはとても前向きだ。
まだ内定は決まっていなのだけれど。
----------------------------------------------------------------
スポンサーサイト
[C544]