water 『可視海の空』

トントンは大きく息を吸い込んで、体を風船の様に膨らませると、ゆっくり高度を上げた。
背中の翼を静かにはためかせながら、1人空中散歩を満喫する。
体躯に較べ、明らかに小さすぎるその翼は、飛ぶ事など到底出来そうにない様に見えるが、トントンは自分が飛べると信じて疑わず、そして実際に飛んでいるのだった。
ここでは、飛ばない理由など考えない事が、飛ぶ理由となるのだった。

…かつてこの星を調査に訪れた人間たちは、図らずも自己の内面との対峙を迫られた。
その結果、或る者は精神を病み、或る者は自ら命を絶ち、或る者は耐え切れずこの地を去っていった。
ただ1人の例外を除いて。
トントンの眼下には、霞がかった広大な海原が広がっている。
「ソラリス」と呼ばれるこの星の海は、人の願望を反映し、命を吹き込む。
トントンもまた、この海が人間の残留思念を実体化させた存在であった。
だが、彼自身は自分が何者であるのか知らない。

もうすぐ前方に、ケルヴィン夫妻の暮らす小島が見えてくるはずだ。
彼らは今日も笑顔で僕に手を振ってくれるだろうか。

(ブログ:
http://www32.ocn.ne.jp/~water_site/mak/)
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天の邪鬼な性格なので、敢えてこういうテイストの作品にしてみたのですが、実際作ってみたら楽しかったです。Ryo1さんもいつか是非w