たかのん :『飛ばない理由』
いつものように歯を磨きながら洗面所の窓を開ける。
最近建てられた大きな白い仏像の後ろ姿が見えると僕の一日の始まりだ。
こないだAmazonから届いた白いツナギを着て工場へ向かう。
奥さんが汚いの見かねて黙って買ってくれたんだ。
去年までやたら怪我多かったけど、このツナギにしてから怪我は無いな、、いやむしろ今までの運が悪すぎた。

実はこの仏像は僕にしか見えないらしくて
半年くらい前から何か建て始めたな、と思ったらビルくらいある大きな白い人の形のようなものが出来上がってた。
仏像と言うのもどこかの大きな仏像をTVで見て、それの印象に似てるから仏像って言ってるだけで
本当は何だか知らない。
奥さんとは建ち始めて一ヶ月くらいの時に「何かできてるよね」的な話をしたけど
丁度喧嘩してて気まずい雰囲気を打破するための一言だったから相手にもされなかった。
まあ、そのあとは毎朝洗面所からだんだん出来上がっていく仏像さんを見るのが僕だけの
ひとつの楽しみになっていったのだ。
これだけ大きいとTVとかネットとかの格好のネタにになるんだろうけどそれが全くない。
何か新興宗教の建物の一部で、あんまりその事に触れたらいけないものかと思って、
怖々会社の同僚に話したら彼はそんな話題一切聞いた事がないそうだ。
変に思われるだろうと思ったけど、そんなはずは無いと色んな会社のスタッフに聞いてみたけど
誰も知らない、、そこで初めてその仏像さんが見えるのは僕だけじゃないのか、という考えに至った。

あんまりその事ばかりに気を取られてると怪我の元だ、気を引き締めて仕事仕事!
と思ってた矢先に部材を置いてある大きめのラックにフォークリフトがぶつかって僕の目の前に
倒れてきた。。。
「うーん、これはよけられないな」と思いつつ倒れてくるラックの行く末を見てたら一瞬視界が歪んだ。
気がついたら洗面所で歯を磨いてた。
窓の向こうには仏像さんがいる。足元よく見ると顔のようなものが見えた。
見えていたのは後ろ姿じゃなかったらしい。
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[C876] 世にも奇妙な物語