ヒグ :『蟲の女』【空輪:くうりん】この世界の一般的な飛空挺
第1章
あまりの眩しさに目が醒める。私は蒼い空を飛んでいた。
私達の部隊は大規模な作戦に召集されていた。目的地は目前。
地面を這いつくばる人間を見下ろす。私は絶対者だ。全ての情報が私の頭の中に流れてくる。
まるで土の上を這う虫を見るが如く地上の人々を眺めていた。
突如
眩い光が全身を包む。強い衝撃と共に辺りが暗くなる。意識と共に私の身体も堕ちていく。

第2章
次に目が醒めると辺りは闇に包まれている。
酷くぬかるんだ道を裸足で歩いているとそのうち首まで埋まってしまうのではないかと不安になる。
重い脚を一歩づつ動かし続ける。
泥が脚にへばり付く度に動作も緩慢になる。
ふいに恐怖 に襲われた。このままでは脚が止まってしまう。
死、よりも泥に埋まることの方が恐ろしい。私は残った力を振り絞り勢いよく地面を蹴った。
その時、右脚が何かに当たった。硬く冷たいぬるぬるとした何か。暗がりで目を凝らし 顔を近づけて見る。

第3章
蝸牛だ。人間など丸呑みされるであろう大きさだった。
私は迷わず殻の上に跨った。すると蝸牛が大きく仰け反った。湿った触覚が私の顔を撫でる。
殻の方から異音がなる。懐かしい音。
握っていた触覚は硬くなり飛び出した半透明の頭は色を変えていった。するとなんとも言えぬ心地良さが全てを包み込む。
これは[私の蝸牛]だ。
殻の中からけたたましい音が響く。
全てを吹き飛ばすような音。
エンジン!
私は空輪に乗っている。
瞬間、周りの景色が溶け出し後ろへと流れていく。機体が跳ね重力から解放される。
蝸牛が光へと導いていく。約束の場所。永遠なる我が安住の空へ。

最終章
眼下に泥の道を見降ろす。私が来た道は脚を引きずった跡がまるで蝸牛が這ったように醜い模様を残していた。
やがて光は眩しさを増しここが終着点だと教えてくれた。やっと此処へ辿り着いた。光は私を優しく包み込んでいた。
突然。空輪は元の蝸牛の姿へ変貌する。
堕ちる
またあの何もない暗闇へ。
【生体実験経過手記】

「第12師団RN431部隊所属。被験者5名による脳神経収束デバイスを用いた超小型戦闘機運用試験第9回の概要。
空輪部隊による組織的戦略を想定したシミュレーションテストの結果、被験者数名は極度の神経系異常により意識混迷状態に陥り続行不可能と判断し同テストを中断。
以後、被験者の意識は戻らず集中治療室へ搬送される。
未だ実戦投入への課題を残したまま上層部は今回を以って実験の未期限中止を決断した。」
そして
[被験者93号]と呼ばれた私は、その半年後の夜、故郷のこの土地で突然目覚めた。
何かの前触れのように、ふと見上げた夜空を一機の空輪が大気を切り裂いた。
今迄見たこともない速さで。パイロットに抱きかかえられた少女が私に微笑みかけた気がした。
不思議と心が落ち着いた。私の空はまだ目の前にあるのだ。


【飛ばない理由:蟲の女】
まず初めに、ショートストーリーなのに長くなってスイマセン!
なるべく削ったのですがまとめきれませんでした。
駄文にお付き合い頂きありがとうございました。
話の最後に出てきた少女は前回の空輪パイロットの子供時代でして、偶然2人は出会ってました。
なので同じ世界の出来事として統一性のあるデザインを心がけました。
機体はほぼガンプラですが全く違う物として作る過程は非常に楽しくあり、この企画がこの先も続く限り
参加したい思いです。
最後に、お誘いいただいたホセさん。本当にありがとうございました。
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[C1093] >yacchiさん