HIROFUMIX :『Wi-Fiがやってくる!ヤァ!ヤァ!ヤァ!』

西暦20XX年──
12月31日東京ビッグサイト
この巨大な同人誌即売会が始まって百年余、
いつしかこの人数に対応する通信インフラも技術的限界を迎え、
インフラを整備する業者は常設回線の強化を諦め、有人機動基地局による臨時対応をとって久しい。
田舎者の私はそんな機動基地局などというものは見たことがなく、
テレビや映画で見る存在でしかなかった。
私は田舎から出てきたおのぼりさん状態でどこの行列に並んでいるだの、
レア同人誌が買えただのといったことを、
無邪気に携帯端末から地元の有人を中心とするフォロワーに向かってつぶやいていた。
田舎者を名乗ってつぶやく私のアカウントはそこそこ人気者であると自負していたし、
やや盛り気味に田舎者を演じる生き方も私には心地よかった。
そんな悠々自適なつぶやきライフを満喫していると……
画面に「人大杉!シバシマタレヨ!」と表示され通信が断絶された
こういう時に2ちゃんねる言葉で表示するアプリを入れた過去の自分軽い殺意をおぼえた。
「ああ、こういう些細なハプニングを自他ともに認める田舎者として大いにつぶやきたい」
「だのに、だのに……」
ひょんひょんひょんひょんひょん…
ひょんひょんひょんひょんひょん…カタカナでは表現したくない間抜けな音とともにそれが現れた。

やたら高いとこにいると思ったそれは周りの注目を集めると急停止し、
急降下!と思わせる機動で垂直に高度を下げピタリととまった。
音は相変わらず間抜けだったひょん。

オレンジの上着をきた運転手は今の機動のかっこよさを自慢するようにドヤ顔で手を振りながら笑っていた。
ちょっとイラっとしたが彼の運転してきた機動基地局のお陰で私はつぶやきライフを再会出来た。

私はもちろん、見上げて撮影した。つぶやきたかったから。
想像以上にかっこいいし、このイベントのニーズに答えて施されているという迷彩も素敵だ。
とても感動している自分を感じた。
コスプレをする気はさらさら無いが、アレの運転をして周囲の注目を浴びるのは気持ちいいだろう。
痛車なんかよりも……きっと……
運転手が無線を受けて何かを答えているような素振りを見せると、
その機動基地局は私に背中を向けて、また別の通信飽和地帯へと急発進していった……

「カッコイイ……」
この時の憧れが忘れられず、今では私も機動Wi-Fi基地局の運転手である。
田舎者を演じ、フォロワーが増えればいいと思っていた私が(目視して注目を得られる高度の)空への憧れから
こうしてビックサイト勤務のシティボーイになれたのだから人生はわからない。
ひとつ言えるのは、私のつぶやきは空へとつながっていたということだ。
ただ、音は未だに間抜けだが。
(カドワカs新書刊:つぶやきジョニー自伝「私はこうして空に生 きている」より)
スポンサーサイト
色も渋いです!
ストーリーはなんか「ひょんひょん」が
聞こえてきそうですw