Ryo1 :『重家禽兵レプラコーン』
今日もまたオーラロードを越えて地上人の戦士が続々とやってくる。
オーラロードが地上人の言葉で“光回線”と呼ばれるようになってからというものの
地上界から召喚される戦士の数は膨れ上がり、この世界の戦乱は激化の一途を辿っている。
かつて聖戦士と呼ばれた伝説の戦士はその時代の悪を打ち倒し戦乱を治める為に戦ったとされるが
この時代の彼らは戦いの為の戦いとでも言うべき狂奔に身を任せ互いに争い競い合っている。
世界の安寧や統治などに興味が無い彼らはうわ言のように繰り返す。“ハック&スラッシュ”と。

そのような地上人の戦士のなかでも最も畏怖されるのは重家禽兵と呼ばれる存在だ。
この世界に生息する猛禽類と甲殻類を掛け合わせたような姿の怪物である恐獣の体から
作り上げた生きた鎧と、それに身を包み自在に操る異形の戦士を表す言葉。
天を駆け岩をも砕くその力は一般的な地上人の戦士である無家禽兵の大部隊を単騎で圧倒する。

重家禽兵はかつては“ハンター”が捕えた恐獣を素材にしていたのだが次第に乱獲が問題となり
いつしか我々コモンが“ファーム”で恐獣を育て、彼らが買い取るという方式になっていった。
もちろん非常に高価な代物で地上人といえどもおいそれと手を出せるものではないが
“運営”(彼らの神のことだろうか?)への御布施だと言って笑って対価を払う者もいるのだ。
だがそのようにして強力な装備を得た者たちの前途が常に安泰かと言えばそうではない。
あの丘の上に見えるのはレプラコーン装備の若者だがもう数週間あの場に佇んでいる。
そう、我々の与り知らない何かが限界に達した地上人は魂が抜け動かなくなってしまうのだ。

あの若者に初めて出会った頃、宝物の在処を知るという地上界の妖精から名を取った
自慢の重家禽兵を私に見せ「これでドロップ率が高くなるかも」と嬉しそうに話していた。
コモンである私にはそれが何を意味する言葉なのか分からなかったが
あの重家禽兵の周囲に散乱したままの魔導具や貨幣と関わりのあることなのだろう。

彼の重家禽兵には進んだ文明を思わせる飛行装置と恐ろしく巨大な剣鉈が装着されているが
それらは彼ら地上人が“ガチャ”と呼ぶ一種の魔法によってこの世界に持ち込んだものだ。
そうして得た家禽“アイテム”の威力は凄まじく、あれは私の知る限り最も優れた重家禽兵となった。

しかし、恐らくあの重家禽兵はもう二度と飛ぶことも無ければ動くこともない。
彼は何かに追われるかのように力を求めていたが、そんなものは既に手に入れていたはずなのだ。
だが彼は更に強く更に速くという欲望を抑えることができず、遂に引き返すことがことが叶わなかった。
あれが重家禽兵では満たされなかった者、廃家禽兵となった者の成れの果ての姿。
最後に会ったときにあの若者は憔悴した顔でまた私には分からない言葉を呟いていた。
「魔法のカードの魔法が切れた」
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