小泉岳弘 :『寓話』
昔々、グンディーティという大きな、しかし孤独な生き物がいた。ある日、貧しい一組の男女がグンディーティのところにやってきて、「お願いです、どうかあなたの甲羅の上に住まわせてください。私達にはどこにもいくところがないのです」と言う。グンディーティは彼らの方に視線を向けたが、ただ何も言わないでいたので、男女は甲羅の上に土の家を建てて住み始めた。
グンディーティの甲羅に上に住んでいれば、様々な生き物が寄ってくるので、獲物には困らなかった。
やがて、甲羅の上で初めての子供が生まれた。グンディーティはその表情を変えることはなかったが、心中ではとても喜んでいて、この「イヨ」と名付けられた女の子に少しだけ自分の「力」の一部を分け与えた。
一家には更に子供達が生まれ、また外からも人々がやってきて住み始め、集落が出来、賑やかに栄えていった。それまで独りぼっちだったグンディーティーはとても嬉しかった。
力を授けられたイヨは唯一、グンディーティと意思の疎通が可能で、更には非常に長寿であった。彼女は一族と「月の塔」に住み、子供、孫、曾孫..と世代を重ねていった。

しかし、幸せな時は永くは続かなかった。人が増えるにつれて、獲物や富を巡って争いが起き始め、多勢の人々がグンディーティの上で死んだ。グンディーティはやはり無言だったが、とても悲しかった。
イヨの子孫たちも含め、残った住人も一人、また一人と去っていき、とうとうイヨただ一人になった。とうに300歳を超えていたイヨだったが、ついに彼女も老いて天国へと旅立った。
グンディーティはその力を使って、時間を元に戻し、皆が幸福だった時からやり直す事が出来たはずだったが、何故かそうすることはなかった。

また独り、孤独になったグンディーティは背中に廃墟を背負ったまま、今も変わらずその場所で漂っている。
「オラッ、何そんなとこで油売ってんだ!早く持ち場にもどりな!先遣のダーコイから連絡が入った。奴はもうこっちに気付いてる。」
「あっ、壱与船長!!」
「今追ってる白鋼海月は今まで類を見ないほど巨大な個体だ。通常の海月よりかなり長く時間を止めてくるはず。手強いよ。だがその分儲けもデカイんだ。なんとしても奴を確実に捕獲するぞ。メメザは『アリスのウサギ』の調整、ノドグロは量子ルアーの準備を急げ!」
「はっはい?!しかし船長はまだお若いのに私ら爺ィ連中をガッチリ従えるなんざぁ、大したもんですねー、へへ」
「うるさい!さっさと行け!」
「ふん、まったく... 一度死んだことにしなけりゃならないなんてねぇ。本当の歳なぞ知られたくないわ...なぁグンディ」
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